この記事の連載
『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』前篇
『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』後篇
見る人によって感じ方が変わるような映画に

――劇中の鮮度の高いかけ合いやコンビネーションが見どころの一つです。撮影にあたり、お二人はどのように仲を深めたのでしょうか?
キム・ゴウン キャスティングが完了してから撮影に入るまで、数ヶ月ブランクがありました。その間、二人でいろんな話をしましたし、お互いのキャラクターを深堀りすることができたので、実際にクランクインしてからは、ぎこちなさを感じることもなく、シーンだけに集中できました。
そうそう、クランクイン前には一緒にクラブにも行きました。私は、この映画をきっかけに、遅ればせながらクラブに目覚めてしまいました(笑)。スタッフの方が、「あそこがオススメだ」「ここが好きだ」「ここはこんな感じの音楽が流れるよ」といろいろ教えてくださるので、本当にたくさん通いました。いい経験でしたね。
ノ・サンヒョン 梨泰院(イテウォン)のクラブは、ほとんど全部回りましたよね。

――監督はどんな映画にしたいとおっしゃっていましたか?
キム・ゴウン フンスは性的少数者で、ジェヒはアウトサイダーのような子。監督は、そういう人たちに対する偏った見方を観客にしてほしくなかったようです。見る人によって感じ方が変わるような作り方にしたい、そして心地いい映画を作りたい、そんな話をたくさんしてくださいました。
それから、音楽が本当にいいんです。映画の雰囲気を大きく左右するものなのですが、耳に心地いい音楽ばかりで、実際とても心地いい映画となっています。まさしくそこが、今作の長所だと思います。

ノ・サンヒョン 僕には映画に対する雰囲気や内容というよりも、キャラクターについていろいろとお話をしてくださいました。監督が考えている人物像を押し付けるのではなくて、僕が考えるフンスについてもたくさん話を聞いてくださり、僕を信じて任せてくれた部分も多かったのでありがたかったです。
――ノ・サンヒョンさんを知る人は、サンヒョンさんのことを「内向的な性格」だと言うそうですね。激高したり、酔っぱらって陽気になったりする演技は難しかったのではないでしょうか?
ノ・サンヒョン 内向的ではありますが、僕も親しい人たちといる時はふざけたりもしますし、親しくなればたくさん話もしますよ(笑)。ですから、フンスを演じる時にも、無理にテンションをあげようとはしませんでした。原作とも違うキャラクターだったので、このシナリオに集中するだけで十分だと思いましたし、その時々で、自分が感じるままに演技をするようにしました。

――お二人で相談して作りあげたシーンもあるのでしょうか?
ノ・サンヒョン 多かったと思います。アドリブもたくさんありましたし。監督が自由に演じる雰囲気を作ってくださいました。
キム・ゴウン 台本は文字ですから、生身の人間が演じてみると、「こういうテンポにした方がはるかにそのシーンが活きるだろう」という部分があるんです。そのため、全てのシーン、セリフごとに、リハーサルでアイディアを出し合って、演技を合わせてみて、よりよいシーンを作っていきました。そうやってコミュニケーションしやすい現場を作ることが重要だと思いますし、その点、今回はとてもいい現場でした。
――現場の雰囲気が良かったようですね。
キム・ゴウン 私がいる現場は、だいたい雰囲気がいいんです。フフフ。
『ラブ・イン・ザ・ビックシティ』

映画『破墓 パミョ』やドラマ「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」で人気のキム・ゴウンと、ドラマ「Pachinko パチンコ」で注目された新鋭俳優ノ・サンヒョン共演。世界三大文学賞の一つ、国際ブッカー賞にノミネートされたパク・サンヨンのベストセラー小説を原作に、イ・オニ監督がメガホンをとる。
ストーリー
他人の目を気にせず自由奔放なジェヒとゲイであることを隠して生きるフンス。大学の同期として知り合った二人は、ルームシェアをしながら友情を深めていく。
監督:イ・オニ
出演:キム・ゴウン、ノ・サンヒョン
原作:小説『大都会の愛し方』より「ジェヒ」(パク・サンヨン著、オ・ヨンア訳/亜紀書房)
提供:KDDI
配給:日活/KDDI
2024年/韓国映画/韓国語/原題:대도시의 사랑법(英題:Love in the Big City)
1時間58分/カラー/1.85:1/5.1ch/字幕翻訳:本田恵子
キム・ゴウン
1991年7月2日生まれ。『ウンギョ 青い蜜』(12)でデビュー。ドラマ「トッケビ ~君がくれた愛しい日々~」(16)では社会現象を巻き起こした。その他の出演作に『その怪物』(14)、『コインロッカーの女』(15)、『ユ・ヨルの音楽アルバム』(19)「ザ・キング:永遠の君主」(20)、「ユミの細胞たち」(21)、「シスターズ」(22)などがある。本作では、2024年の「今年の女性映画人賞」を受賞。公開を控えている作品に、主演作「ウンジュンとサンヨン」、チョン・ドヨン主演、「愛の不時着」のイ・ジョンヒョ監督が手掛ける「告白の代価(仮題)」、Netflixの新シリーズ2作品がある。
ノ・サンヒョン
1990年7月19日生まれ。2010年、アメリカでの留学中に韓国でモデル活動をスタート。Netflixドラマ「センス8」(15)で俳優デビュー。Apple TV+の「Pachinko パチンコ」(シーズン1(22)、シーズン2(24))で牧師イサク役を熱演し、国際的な知名度を高める。その他の出演作に、ドラマ「カーテンコール」(22)、「エージェントなお仕事」(22)、「サウンドトラック #2」(23)などがある。本作では、「韓国映画製作家協会賞」新人俳優賞、「青龍映画賞」新人俳優賞を受賞。

2025.06.19(木)
文=酒井美絵子
撮影=平松市聖